那須塩原市西那須野の高校受験・大学受験塾 本松学習塾塾長のブログ
→前々回のブログ記事の続編のような記事です。
「うちの子、ちゃんと読めばできるはずなのに」——そんな言葉を保護者の方からよく聞きます。
テストが返ってくるたびに「問題をよく読めば解けたのに」「ケアレスミスが多い」という声が上がる。
しかし、その認識には大きな落とし穴があります。
私は20年間、中高生の学習指導に携わってきましたが、「読めばできる」と言われる子の多くは、実は「読めていない」のです。
それは注意力や性格の問題ではなく、文字情報から意味を抽出する力そのものが十分に育っていないケースが非常に多い。
教室で問題集を解かせると、問題文を最後まで読まずに解答欄を埋め始める生徒がいます。答え合わせをさせても、解説を読まずに赤ペンで正答を写すだけ。
「雑だな」「面倒くさがりだな」と片付けたくなりますが、実態は違います。
彼らは文字の羅列から必要な情報を取り出し、それを頭の中で処理することに、私たちが想像する以上のエネルギーを必要としているのです。
これを「文字情報処理の体質」と私は呼んでいます。
運動でいえば基礎体力のようなもの。100メートルを走るのに息切れする子に、いきなりフォームの改善を求めても効果は薄い。
まず走れる体を作らなければならない。学習も同じです。
文字を読むことに苦痛を感じる子どもは、教科書を開くこと自体がストレスになります。
授業中、先生の話は聞けても、教科書の説明は頭に入らない。参考書を買い与えても「読む」という行為自体が負担なので、結局は開かれないまま本棚に並ぶことになる。
さらに深刻なのは、この体質が試験本番で牙を剥くことです。
せっかく知識を蓄えても、問題文の条件を正確に把握できなければ、その知識を正しく使えません。
・「〜でないものを選べ」という指示を読み飛ばす。
・グラフの注釈を見落とす。
・記述問題で問われていることと違う内容を書いてしまう。
これらは「うっかり」ではなく、文字情報を処理する力の不足から起きています。
では、どうすればこの「体質」は改善できるのか。
重要なのは、読む量を単純に増やすことではありません。嫌いなものを無理に食べさせても好きにはならないように、読むことが苦手な子に大量の文章を読ませても逆効果になりがちです。
効果的なのは、読んだ内容を「使う」経験を積み重ねることです。
教科書を読んで終わりではなく、読んだ内容について質問に答える、要約する、誰かに説明する。
そうした出力を伴う読書体験を通じて、脳は「文字情報を処理する価値」を学習していきます。
もう一つ大切なのは、読む対象のレベル設定です。難しすぎる文章と格闘させても、苦手意識が強化されるだけ。
本人が七割から八割理解できる難易度から始め、成功体験を積ませる。
その上で徐々にレベルを上げていく。この段階的なアプローチが不可欠です。
「ちゃんと読めばできるはず」という言葉の裏には、読む力は誰でも自然に身につくものだという前提があります。
しかし現実には、文字情報から学ぶ力には大きな個人差があり、意識的に育てなければ伸びない子もいる。
お子さんの「読まない」「読めない」を性格や態度の問題として片付けず、ひとつの能力として捉え直すこと。それが学力向上の突破口になることは少なくありません。
問題の本質が見えれば、対処法も見えてきます。

