演習中の生徒を見ていて、最近とくに目立つことがあります。問題をひと目見ただけで、「難しそうだから」という理由で手をつけない子です。問題文は、ほとんど読んでいません。自信のない子ほど、この傾向がはっきりしています。
以前このブログで、「難しい」という判断は問題文を読み終える前に決まっている、と書きました。今回は、問題に向かうときの「構え」の話です。
「読めない」「できない」と思いながら問題に向かうと、腰が引けます。
腰が引けた子は、いつの間にか目的がすり替わっています。問題を解くことではなく、その問題から早く離れることが目的になるのです。白紙のまま次へ進むのも、間違いでもいいから何か書いて済ませるのも、根は同じです。本人は、すり替わったことにほとんど気づいていません。
スポーツの世界では、「相手に呑まれるな」とよく言われます。呑まれるとは、相手の実力に負けることではありません。気迫や雰囲気に圧倒されて、自分の力を出せなくなることです。試験も同じで、対戦相手は問題です。長い問題文、見慣れない図、大問の最後という位置。どれも相手の雰囲気のようなもので、中身の手強さとは別物です。
構えが結果をどれだけ変えるかを確かめた実験があります。
英エクセター大学のムーアらが2012年に発表した研究では、ゴルフ経験のない大学生127人に、約1.8m先のカップを狙うパットをしてもらいました。上位者に賞金が出ることなど、条件は全員同じです。変えたのは、打つ前に聞かせる説明だけでした。半数には「挑戦しがいのある課題で、あなたなら乗り越えられる」、残りの半数には「とても難しい課題で、これまでの参加者も苦戦している」という趣旨の説明をしました。
止まったボールとカップとの距離は、平均で前者が約35cm、後者が約47cmでした。無作為に分けただけの二つの集団です。「難しい」と聞かされた側は、打つ直前にボールを見つめる時間も短くなっていました。問題文を読み切らずに書き始める子と、よく似ています。
子どもが問題を見て思う「難しそう」は、この実験で片方の集団に聞かせた説明と同じ働きをします。
違うのは、誰にも言われていないのに、自分で自分に言い聞かせている点です。心理学者のバンデューラは、自分の力を疑っている人は難しい課題を自分への脅威とみなし、避けようとする、と述べています。自信のない子ほど呑まれやすいのも、うなずけます。
自信がつくのを待っていては、次のテストに間に合いません。自信は時間をかけて積み上げるものですが、構えはその前でも身につけられます。どっしり構えるための第一歩は、呑まれるという現象があり、それで点数が変わると「知る」ことです。
「難しそう」という感覚は、問題についての情報ではなく、自分の状態についての情報にすぎません。それが分かっていれば、読む前に引き返す理由にはなりません。
ご家庭でできることもあります。テストが返ってきたら、白紙で出した問題や、とりあえず書いて済ませた問題を、答えや解説を見ずに、時間を気にせず解き直させてみてください。
そこで解けた問題は、学力ではなく構えで落とした点です。本人にとっては、親の「やればできる」より、自分の答案のほうがずっと説得力があります。
問題の難しさは、こちらが怯えても怯えなくても変わりません。変わるのは、こちらの出来のほうです。
那須塩原市西那須野 本松学習塾 塾長のブログ
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