「だいたいできた」が招く失速

子どもの脳が誤作動する瞬間と、最後まで走り切るための親の声かけと習慣づけ

· 塾長の指導観・雑感

那須塩原市西那須野の高校受験・大学受験塾 本松学習塾塾長のブログ

テスト前に「勉強できた?」と聞かれ、「だいたいできた」と答える子ども。

こうした返事にどこか安心感を覚える保護者も多いでしょう。

しかし、実際にはこの言葉が成績の伸びを止めているケースが少なくありません。

人間の脳は「完了した」と思った瞬間に活動を緩めてしまうからです。

例えば、仕事でも9割まで順調に進んでいたのに、最後の仕上げで異様に時間がかかった経験はありませんか。

あれはまさに「脳がゴールと認識してしまったためにエネルギーを絞り出せなくなる」現象です。

勉強も同じです。「だいたいできた」という自己評価をした瞬間、脳は「ゴールに着いた」と判断し、ペースを落とします。

その結果、最後の詰めが甘くなり、テスト本番では「前回と同じくらいの点数」で止まるのです。

一方で、伸びる子の口癖は違います。「まだ英語の単語が残っています」「数学の関数の応用を終えていません」など、残っているタスクを具体的に言えるのです。

こうした子は常に「ゴールがまだ先にある」という認識を保っているため、最後の最後までエネルギーを出し切ります。

では、保護者にできることは何でしょうか。ここで大切なのは「声かけの転換」です。

「勉強できた?」と聞く代わりに「今日やる予定だったことのうち、まだ残っているのは何?」と尋ねてみてください。

この一言で、子どもは「完了」を口にせず、「残り」を意識するようになります。

もう一つ効果的なのが「リスト化と消し込み」です。ただし、「理科を復習」などの漠然とした表現では脳が曖昧なゴールを設定してしまいます。

そうではなく「理科:教科書p.112の光合成を3回音読→用語テストを5分」といったように、行動レベルで書き出すこと。これを紙に書き、終えたら線を引いて消す。この単純な作業で「まだ残っている」という実感を最後まで保てます。

あるご家庭では、冷蔵庫に「テスト週間リスト」を貼り、終えたら太マジックで線を引くようにしました。保護者の方が夕食時に「今日の残りはどれ?」と聞くだけで、子どもは「まだ漢字練習が残ってる」と口にするようになり、結果的にテストで過去最高点を取ったそうです。

決して新しい教材を買ったわけではなく、習慣を変えただけで成果が出たのです。

もちろん「だいたいできた」と言いたくなる気持ちは理解できます。人間は安心したい生き物ですし、子どもならなおさらです。

しかし、その一言がもたらす安心感こそが成長を止める壁になります。

だからこそ、保護者が「残りを言葉にさせる」「リストを見える化させる」ことで、その壁を乗り越えられるのです。

最後に強調したいのは、「だいたいできた」と答える子は、努力を怠っているのではない、ということです。ただ、脳の仕組みによって「終わり」と錯覚しているだけです。その誤作動を修正するために、親子で「残りに目を向ける習慣」を作ること。これこそが、成績を次の段階に押し上げるための最短ルートなのです。