子どもを変える“指示の出し方”という視点

· 塾長の指導観・雑感

那須塩原市西那須野の高校受験・大学受験塾 本松学習塾塾長のブログ

「うちの子、先生の言うことがちゃんと聞けていない気がします」。

そうおっしゃる保護者の方は少なくありません。
そして、多くの方が「集中力が足りない」「聞く力が弱い」と結論づけます。しかし、それは本当に子ども側の問題なのでしょうか。

教育界で「授業の神様」とも称される向山洋一氏は、その名著『授業の腕を上げる法則』(明治図書)の中で、「一時一事(いちじいちじ)」の原則を強調しています。
すなわち、一度の発話で伝える指示は一つに絞るべきだということ。たとえば「テキストを出して46ページを開いてください」という一文には、実は二つの指示が含まれており、後半の「46ページを開く」が聞き落とされやすくなるのです。


この「一時一事」をはじめとする向山氏の実践知は、現在も全国の教師たちに受け継がれています。それが「TOSS(Teachers’ Organization of Skill Sharing/教育技術法則化運動)」という教育実践ネットワークです。TOSSは、指導技術を科学的・再現可能な形で体系化し、全国の教師が共有・実践する仕組みを持っています。


さて、この「一時一事」の考え方は、何も学校教育だけに通じるものではありません。

当塾でも、生徒が「話を聞いていない」「指示が通らない」と感じる場面にしばしば出くわします。
 

しかし、こちらが指示を一つに絞り、間をとってから伝えるようにすると、驚くほど生徒の反応が変わるのです。「あれ、この子ってこんなに指示通りに動けたっけ?」と感じることさえあります。


もう一つ重要なのが「指示の前に“言葉を片づけさせる”こと」です。

向山氏は、指示を出す前に必ず“間”を置くことを強調しています。
たとえば、文法の解説をした直後に「では46ページを開いて」と言っても、多くの生徒は前の説明の余韻で頭がいっぱいです。結果、指示の最初を聞き落とす。
これを防ぐには、わずかでも沈黙を置く、声のトーンを変えるなどして「ここから指示が始まる」と意識させる工夫が必要なのです。


つまり、「聞く力が弱い」というのは、実は「聞かせ方に問題がある」場合が少なくないのです。

私たち指導者が「伝えたつもり」でも、生徒には伝わっていない。指示の技術は、教科内容と同じくらい学ぶ価値がある“技術”なのです。


英語という教科は特に、「聞く力」がそのまま学力に反映される場面が多いです。指示語(this, thatなど)や文構造の理解には、教師の語りかけを正確に捉える力が欠かせません。

ですから、指示の出し方一つで、学力そのものが底上げされるといっても過言ではありません。


保護者の皆さまにぜひお伝えしたいのは、「うちの子は聞けない子だ」と早急に決めつける前に、少し視点を変えていただきたいということです。

ご家庭でも、たとえば「早くお風呂入って、明日の準備もして、歯も磨いて寝なさい!」と一気に指示するより、「まずお風呂に入ってね」と一つずつ伝えるだけで、子どもの動きは見違えるほどスムーズになります。