「言われたことを言われた通りにやる力」は、なぜ子どもの可能性を広げるのか

· 塾長の指導観・雑感

那須塩原市西那須野の高校受験・大学受験塾 本松学習塾塾長のブログ

「言われたことを言われた通りにやる」ことが大切だ、と話すと、決まって「そんなことばかり教えたら、言われたことしかできない子になるのでは?」という反論が出てきます。

 

実際、世の中には「主体性」や「創造性」が声高に求められているので、その心配ももっともに思えます。

 

しかし私は、これは大きな誤解だと感じています。むしろ、言われたことを言われた通りにやる力は、子どもの可能性を広げる基盤になると考えています。

 

なぜか。
 

まず、「言われたことを言われた通りにやる」とは、相手の指示を一言一句正確に受け取るということです。

 

ここで求められるのは、単なる従順さや受動性ではありません。例えば、算数の文章題。「りんごが3つ、みかんが2つあります。合わせていくつですか?」というシンプルな問題でさえ、設問の

意図を正確に捉えられないと正解にはたどり着けません。

 

学校や塾で多く見かけるのは、「よく読んでいない」「思い込みで解いてしまう」子どもたちです。

 

国語の記述問題で「理由を答えよ」とあるのに結果を書いてしまったり、

算数で「小数第一位を四捨五入」と指示されているのに、その部分を読み飛ばして答えてしまったり。

 

これは「言われたことを言われた通りにやる」ことが、単なる受動的な姿勢ではなく、高度な読解力・注意力・理解力を必要とする作業であることの証拠です。

 

この力を鍛えるには、まず「相手の言葉を自分勝手に解釈しない」「先入観や早合点を排除する」姿勢が不可欠です。
 

「うちの子は自由に考えるのが得意だから……」と仰る保護者の方もいますが、自由な発想は土台としての「正確に受け取る力」があってこそ本領を発揮します。

 

実際、どんなに想像力豊かな子でも、相手の意図を誤って受け取ってしまうと、ズレたアウトプットになってしまいがちです。

 

創造性は、あくまでも「枠組み」を理解した上でこそ生きてきます。

 

では、「言われたことを言われた通りにやる」ばかりでは、試行錯誤や自分で考える力が育たないのか? 

 

私は逆だと思います。

 

試行錯誤をするにも、まず「問題の意図」や「条件」を正確に捉えないと、的外れな努力をしてしまいます。
 

たとえば、理科の実験でも「手順通りにやる」「決められた分量を量る」ことが基本です。

 

そこで正確さを身につけたうえで初めて、「この部分を変えてみたらどうなるか?」といった発想や工夫ができるようになります。

 

実社会でも同じです。
 

新入社員の頃、上司に「この書類をA社に送って」と指示されたとしましょう。
 

Aさんは自分の判断で添付資料を省略して送りました。Bさんは「何も添付しなくていいですか?」と確認したうえで指示通りに送りました。

 

後で添付資料が必須だったことが分かった時、信頼されるのはどちらでしょう。
 

「言われたことを言われた通りにやる」ことは、単なる受け身ではなく、「相手の意図をきちんと理解し、確認し、正確に実行する」という、極めて能動的かつ高度な力なのです。

 

そして、これは学力向上にも直結します。
 

たとえば、難関校の入試問題は「言葉の微妙なニュアンス」を正確に読み取らないと歯が立ちません。英語でも数学でも、設問の意図や条件を誤って解釈すると、どれだけ考えても正解にはたどり着かない。「問題を読む力」「指示を正確に受け取る力」が合格を左右するのです。

 

加えて、今の時代、「主体性」や「クリティカルシンキング」が強調されますが、これは「指示を正確に受け取る力」を土台として初めて成り立つものです。

 

言われた通りにできる子は、指示やルールの枠組みを理解した上で、その外側に出ていくことができます。

 

一方、枠組みを理解しないまま「自分なりにやる」子は、努力が空回りすることも多い。

 

これが現実です。

 

私たち塾でも、「言われたことを言われた通りにやる」力を重視しています。それは、思考力や創造性と相反するものではなく、それらを支える確かな基盤なのです。