「何度も言う」の真の意味

子どもに響く伝え方とは?

· 塾長の指導観・雑感

那須塩原市西那須野の高校受験・大学受験塾 本松学習塾塾長のブログ

「またそれ言うの?」

思春期の子どもを持つ保護者なら、一度はこう反応されたことがあるのではないでしょうか。

勉強のこと、生活態度のこと、将来のこと。

親としては、つい繰り返し言ってしまいます。

けれど子どもは、うんざりした顔を見せたり、「わかってるってば」と返したり。すると、こちらも「もう言っても無駄かな」と感じてしまう。

しかし実は、その「何度も」が極めて重要なのです。

脳科学的に見ても、人間は繰り返された情報を「重要なこと」と判断し、長期記憶に落とし込む性質があります。これを「再認知効果(mere-exposure effect)」と呼びますが、教育現場でもこれは如実に現れます。

例えば、ある生徒に「単語を毎日練習しようね」と言ったとします。一度だけ注意深く話したとしても、その子の頭の中にその提案は「その他大勢のアドバイス」の一つとして埋もれてしまいます。

しかし、毎週の授業で、「先週の20個、今日の20個、あわせてもう40語だね」と話し、「前に言ったように、10個ずつなら300語も一ヶ月で覚えられるよ」と繰り返していると、次第にそれは「自分のすべきこと」として定着し始めるのです。

面白いことに、「怖い顔で一度だけ言う」よりも、「穏やかに何度も言う」ほうが、子どもの内面に残ります。

怒鳴ることで一時的に行動は変わるかもしれませんが、「怒られたからやった」という因果が生まれ、主体性は育ちません。むしろ「自分で気づいて選んだ」と感じさせるには、時間をかけた繰り返しの働きかけが必要です。

この「何度も」という行為には、もう一つの副次的効果があります。
 

それは、子どもに「これは親にとって本当に大切なことなんだ」と伝えるサインになるという点です。

例えば、ある家庭で「挨拶をしよう」ということが日常的に繰り返されていれば、それは子どもの中で「うちは挨拶を大事にする家なんだ」という文化になる。逆に、一度怒鳴られて「なんで挨拶しないの!」と言われただけなら、「そのときだけ怒られたこと」として処理される可能性が高いのです。

ここで重要なのは、「内容が同じであること」ではなく、「価値が一貫していること」です。

繰り返し伝えることで、その価値が子どもの中に根づくのです。

教育は、「瞬間」でなく「積算」です。

もちろん、「また言ってる」と嫌がられることもあるでしょう。しかしそれは、効いていない証拠ではありません。むしろ、効いているからこそ「うるさいな」と感じているとも言えるのです。

何度も目にするCMが、いつのまにか頭に残っているように。くり返しの効果は、意識の深層で静かに効いていくのです。

子どもが自分から動き始めたとき、親がかけ続けた言葉が「自分の中から出てきた想い」のように再生される瞬間があります。

そのとき、ようやく子どもは、あなたの言葉を「自分の言葉」として受け取るのです。

だからこそ、私たち大人はあきらめず、粘り強く、何度でも伝えましょう。怒る必要も、説教じみた長話もいりません。

大切なのは、「変わらぬ価値」を、言葉を尽くして静かに、しつこく、届け続けること。それが子どもにとって「大事なこと」になるのです。